渡辺惣樹という、(日本の大学のアメリカ史専門の歴史学者よりも?)アメリカ史に詳しい在野の研究者による翻訳書の中に、示唆に富む、思わぬ一節があることを見つけた。
翻訳文そのまま掲載する。
ブログネタ十個分程度に相当することが書いてある。
現代史における不可解な出来事の謎を解く鍵がここにあると思う。
おそらく著者は、日本が直面した多くの出来事の意味を知っていてそう書き、翻訳者である渡辺惣樹もそういう性格の本であることを見抜き、翻訳し日本に紹介しようとしたのではないだろうか。
以下、標記当該箇所を転載させていただく。
||||| ここから引用開始 |||||||||||||||||||||||||||||||||||
コールダー・ウオー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争
マリン・カツサ著 渡辺惣樹訳
76頁~79頁
金とドルの兌換の約束は二十七年間守られた。しかしアメリカは財政赤字とインフレーションの結果この約束を守ることが難しくなった。オープン市場での金価格は値上がり傾向だったから価格を三十ゴドルに抑えるためには、アメリカや同盟国政府は金を継続的に市場に放出せざるを得なかった。もちろん放出を永久に続けることはできない、困難な時期にあって、フランス政府はニューヨーク連銀に預けてあった金塊をフランス本国に戻す決定をした(一九六七年)。フランスの決定以降もアメリカは金の放出を続け、金の市場価格が公定の三十五ドルに張りつく努力を続けた。
アメリカがドルとの兌換を放棄したのは一九七一年八月十五日のことであった。リチャード・ニクソン大統領はドルと金の交換を止めると発表した。大統領はその理由を、「国際通貨危機を防ぐためである」と説明した。この後もドルは準備通貨としての機能は持ち続けたが、不換紙幣になり下がった歴然とした事実があった。このことは、ドルとリンクしていた他国の通貨も自動的に不換紙幣に化したことを意味した。貨幣と金とのリンクは失われたのである。
金の腐りから開放された政府は、(理論上は)いくらでも貨幣を印刷することが可能になった。その結果インフレーションが当たり前の社会になった。現在のドルの価値は一九七一年からくれべれば八〇パーセントも減価している。
トリック
金とのリンクが消えたドルの価値を維持し、世界の準備貨幣の地位を保つには工夫が必要だった。貿易赤字を減らすことは一つの手段であった。しかし発行するドルの量を減らすことは痛みが伴う。アメリカはこの方法を取らなかった。不換紙幣となったドルを大量に発行し続けることができる方法を選択したのである。
それは世界各国の準備貨幣としてのドルの力の利用だった。これがうまくいけば、アメリカ国外で生産された製品を大量に安価にアメリカの消費者に届けることができる。失敗すればアメリカ国民の生活水準は大きく低下し、政権は烈しい批判にさらされる。
アメリカはうまい方法を見つけた。金とドルのリンクから、石油とドルのリンクに替えたのである。リチャード・ニクソンはいろいろな意味で嫌われた政治家であったが、アメリカ国民のために「ペトロダラーシステム」を作り上げていた。アメリカが強国として立場を維持するのに大事な役割を果たしていた。
金との兌換停止を発表したニクソンは、キッシンジャー国務長官をサウジアラビアに遣った。キッシンジャーはサウジ王朝に対して次のような条件をオファーした。サウジアラビア(つまり同国の石油基幹設備)をアメリカは防衛すると約束した。同国が欲しがればどんな兵器も売ると約束した。イスラエルからの攻撃だけではなく、他のアラブ諸国(たとえばイラン)などの脅威からも守ると伝えた。さらにサウジ王家を未来永劫にわたって保護することも確約した。サウジ王家にとって、特に最後の約束は魅力的だった。
アメリカは見返りに二つのことを要求した。一つは同国の石油販売はすべてドル建てにすること、そしてもう一つは、貿易黒字部分で米国財務省証券を購入することであった。
サウジアラビアは人口が希薄でありながら莫大な石油資源を保有している、しかし危ない隣人(隣国)に囲まれている。宗教指導者がおかしな命令を下せばたちまち虐殺事件が起こるような国が隣人である。そうした国がいつサウジアラビアを狙ってもおかしくはない。サウジ王朝や支配層にとって、アメリカの保護の確約は魅力的だった。
サウジアラビアがこの要請に応える協定書にサインしたのは一九七四年のことであった。一九七五年には、ニクソンとキッシンジャーの狙いどおりOPECの他のメンバーも原油のドル建て取引を決めた。
アメリカのやり方は実に賢いものだった。世界の石油需要の増大に伴いアメリカドルへの需要も増えていった。金とのリンクさせたドルよりも石油取引とリンクさせたドルの方がアメリカにとっては格段に有利であった。面倒だった金との兌換約束もなく、思う存分にドルを刷ることができた。膨れ上がる輸入決済にそのドルを使い続けることが可能になったのである。
アメリカにとって最高のメカニズムの完成であった。石油には世界中からの需要があった。その石油を買うためにはドルが必要になった。石油購入のためにはドルを貯めなくてはならなかった。世界的な需要が高まるドルを連邦準備銀行はほとんどゼロコストで発行することができた。
これがニクソン政権が作り上げた「ペトロダラーシステム」だった。
||||| ここまで引用 |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
参考
◆書評 : マリン・カツサ著、渡辺惣樹訳『コールダー・ウォー』(草思社)
https://ameblo.jp/sancarlos/entry-12032086010.html
マリン・カツサ/渡辺惣樹訳「コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争」感想。
http://www.amanosaizo.com/amen/2015/08/post-1.html
この記事へのコメント