終戦直前の日本の原爆実験の件

本稿は、2019年に刊行された衝撃の書「成功していた日本の原爆実験」の書評的視点からの考察もの。


「成功していた日本の原爆実験」(ロバート・ウイルコックス著、矢野義昭訳)を根拠に、戦時中の日本の原爆実験は成功していたとする見解が保守層の間で支配的となっている。

アマゾン書評については、見方が二つに分かれる。一つは、実験成功したので日本の技術力は凄いとする見解、もう一つは、書いてあることについての部分否定的見解。


私は後者に近い。可能性は否定しないもののやや部分否定的見解となる。
理由は、情報の出所が、アメリカ政府の機密文書に偏重傾向にあるためである。特に、日本人科学者、技術者等の裏付け情報が不足している。

核開発は当時、アメリカにおいては膨大な資金、要員、設備等を必要したとされる。翻訳された、他の歴史書にはそういう趣旨のことが述べられている。


そういう前提に立つと、

・核理論に関する正確性(核理論分野の研究者、研究レポートの存在)
・核兵器開発、製造上の、当時の核心となる要素技術が何であり、要素技術それぞれについてアメリカ、ドイツとの対比で開発成功していたのか否かについての分析
・行われた実験が、兵器化できるレベルにあるのかそうでないのかの分析
・兵器として製造する場合の製造工程についての分析(実験段階での組み立て工程の評価)
・組織体制に関する情報(責任者、要員)
・開発施設に関する情報(工場敷地、工場施設等)
・必要物資確保に関する情報(原材料、電力)
・必要資金確保に関する情報

に基づく検証が必要となるが、本書での説明は今一つ。それでも本書の「訳者序、訳者による本書の新しい知見の集約」(7頁~33頁)は熟読する価値がある。


一言で言うと、本書は、原爆製造技術全体像を把握するには非常にわかりにくい編集となっている。本書はCIA調査報告書などの開示された機密文書を根拠としているが、ありもしない南京虐殺を東京裁判で証言したアメリカ人牧師が居たことからするとCIA機密文書だからと言って信用できるとは限らない。


著者は、技術分野別、課題解決という側面から体系的に話を整理すべきだった。本書は、情報源毎の、あんな情報もあるこんな情報もあるという趣旨の書きぶりが目立つ。

技術的視点でみて、纏め方が今一つなのである。本書が、「訳者序」、「訳者による本書の新しい知見の集約」など翻訳者に苦心を強いる構成とした点は、著者の纏め方の拙さの証左となる。ただ、著者の努力は称賛されるべきレベルではある。


さて、半世紀近く前(学生時代)、ドイツの潜水艦で輸送された図面から国産のジェット戦闘機を制作、試作機を実地にて飛行させた開発責任者だった方の話を直接聞いたことがある。語られた内容は、Wikipediaに記述された内容とほぼ同じ。その方の口癖は、「日本は技術で戦争に負けたのではない」であった。本書は、核兵器技術分野において日本は負けていなけったことが伝わってくる。最近ネットで話題となっている、戦闘機を複数格納でき長時間潜水可能な大規模潜水艦の開発・製造に係わったと思われる方の話も半世紀近く前に聞いている。

そもそも私は軍事機器マニアではない。これらの情報は、語られた方の社会的立場、表情、緊張感ある物腰などから、忘れてはならないことと思い、ずっと覚えている。
二人とも戦時中は学徒出陣経験者、戦後は大学の教官、今現在は故人。
お二人とも、戦時中、軍事機器の重要要素技術の開発に係わった当事者である。この場合の核心の要素技術とは、ジェット戦闘機の場合はエンジン技術と流体力学の翼理論、潜水艦の場合は精巧な特殊機械部品が該当する。潜水艦については、数年前でネットで話題となったが、ネットに書かれていた設備仕様は、半世紀前に聞いた仕様とほぼ一致していた。



一般論として、その時代における重要要素技術が何であるのか、特定し体系的に整理できていない本は、不確かな断片情報の集合体でしかないという評価となる。本書について低評価を下す人、トンデモ本であると評価する人もいる。

||||| ここから引用開始 ||||||||||||||||||||

https://www.amazon.co.jp/product-reviews/4585222464/ref=acr_dp_hist_1?ie=UTF8&filterByStar=one_star&reviewerType=all_reviews#reviews-filter-bar

インプレッサG4
5つ星のうち1.0 米国では「妄想」「神話」、あつかい
2019年10月25日に日本でレビュー済み
1946年の米国で「スネルの物語」とのちに称される「日本の原爆実験が成功していた」という記事が地方紙の片隅に掲載されて以来、この記事は米国の歴史家や科学者によって厳しく批判されてきた。しかし、一時的には消滅したように見えても「スネルの物語」はこれを盲信する後継者によって亡霊のように幾度も甦り、現在は「米国現代史の一つの神話」と位置付けられている。1980年代には、この神話に基づき「広島、長崎の原爆投下を後悔する必要はない。なぜなら日本も原爆を持っていたのだから」との主張すら現れている。なぜ、米国でこのような主張が現れたかについては、米国の歴史家は1980年代に顕著になった日米貿易摩擦による米国市民のフラストレーションを原因に挙げている。本書の主題である「「日本の原爆実験が成功していた」という問題については、物理学の観点から仁科博士の原爆開発経過をまとめた山崎正勝氏の論文(https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri1946/56/8/56_8_584/_pdf/-char/ja)が詳しい。仁科博士の研究していた研究では構造的に「原子爆弾」となり得なかったことがわかる。また、朝鮮の興南が原爆開発および実験の舞台となっているが鎌田正二氏の「北鮮の日本人苦難記―日窒興南工場の最後」に当時の興南の状況が詳述されており、原爆開発、実験が行われなかったことがわかる。なお、英文ではあるがこの「神話」に関する米国の状況を記したWALTER E. GRUNDEN氏による論文「Hungnam and the Japanese Atomic Bomb:
Recent Historiography of a Postwar Myth
(https://www.researchgate.net/publication/233243478_Hungnam_and_the_Japanese_atomic_bomb_Recent_historiography_of_a_postwar_Myth)」によって「スネルの物語」が全く偽りであることがわかる。本書によって興味を持たれた読者には上記の3点に目を通されることをお勧めする。

||||| ここまで引用 ||||||||||||||||||||||||


よって、(重要要素技術について体系的に提示しようとしない?)本書を一読した印象として、「日本の原爆実験は成功した、とするのではなく、規模は別として(兵器化可能はどうかは不明?)成功していた可能性が高い」との見解に達するのである。

しかし、一方、本書の存在を以て、日独伊三国軍事同盟、ソ連の軍事侵攻、中共の朝鮮戦争参戦が核兵器技術獲得にあった?可能性を否定しない。その点において、戦前・戦中・戦後史の不可解な部分を解明するのに役立つ歴史書と評価しうる。


なお、田中英道氏が訳者に翻訳を推奨したことが訳書刊行の動機となったことが、訳者あとがきにて紹介されている。


以上

この記事へのコメント

  • Suica割

    >口癖は、「日本は技術で戦争に負けたのではない」であった

    故人の方には申し訳ないが、日本は技術でも勝てなかったと思います。
    確かに、目を見張る技術もありましたし、日米対等な技術があったのも認めます。
    しかし、信頼性ある内燃機関、レーダー等の電子機器を見るに、そういった、均質で信頼できる量産品製造技術で勝てなかった以上は、技術で勝てたとは思いません。
    2021年08月02日 22:58
  • 市井の人



    >Suica割さん
    >
    >>口癖は、「日本は技術で戦争に負けたのではない」であった
    >
    >故人の方には申し訳ないが、日本は技術でも勝てなかったと思います。
    >確かに、目を見張る技術もありましたし、日米対等な技術があったのも認めます。
    >しかし、信頼性ある内燃機関、レーダー等の電子機器を見るに、そういった、均質で信頼できる量産品製造技術で勝てなかった以上は、技術で勝てたとは思いません。

    技術的には、互角とは思っておりませんが、陸軍・海軍の仲の悪さ、別仕様装備は戦争遂行上致命的でしょう。戦争するならイギリスだけに限定すべきでした。山本五十六は歴史に残る愚将で、その次くらいに技術の優劣の問題を位置づけたいと思います。
    2021年08月03日 07:26

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