稟議書に記されるべき論理・シナリオとは

本稿は、稟議書という意思決定文書に係わる、一種の文章論。


稟議書なので、承認決裁後最低10年は後任者が読み返すことを考慮しなくてはならない。民間企業なら、社内監査、役所監査対応に際し、稟議書コピーを提出することが発生する。10年後の人たち、社内外の関係者がなるほどそう考えたのかと納得する、論理レベルである必要がある。

感情レベル、一時的な視点での理屈では、後年、方針変更を余儀なくされることは必然。


岡崎久彦流に言うと、公開情報に基づく、将来予測、情勢分析した末に編み出された、論理・シナリオが求められる。
この論理・シナリオの文章化が難物。抽象的な概念を、時間をかけてわかりやすい言葉に表現し直す努力と工夫が求められる。そうしない限り共有化、認知、支持は広がらない。政治の世界では「アベノミクス」という概念(論理・シナリオ)が該当する。


文章量は最初は長くても、最終的には簡潔、明快でなくてはならない。
そうしなくてはならない理由は、稟議書の字数制限のため。長すぎて何が書いてあるが論旨不明な稟議書は、文書審査段階で起案不可となる。内閣法制局による文案審査を経ない法案が法制化されることがないのと似ている。


意思決定手続き上の、簡潔な文面での文章化は、どの業種であれビジネス社会での最重要事項となる。世の営業活動、官界に向けた陳情は、受注獲得、政策実現と性格は異なるが、承認決裁手続き上の本質は大して変わらない。


稟議書の本質的要件とは何か。簡潔明快な理由が提案理由欄に記され、提案事項欄に、発注案件については○○社に発注する、官界の政策意思決定においては政策として〇〇を実施すると書かれることである。


しかし、保守言論界は、提案理由欄に記す「論理・シナリオ」を編み出すことが下手くそに見える。問題だー、問題だーと語るのみで、論理・理屈の検討作業そのものを政権や官界に丸投げしているように見える。
本や新聞記事などの一部一節からそのまま稟議書に転載できそうな仕上がりの文章を見ることはまずない。営業的に成功していても実力的にアマチュアが多い世界とみるべきなのである。


そうなってしまう理由は、なぜ現状を変えなくてはならないのか。どんな問題が現実に起きているのか。従来の法規制、安全保障的観点から、官界で流通する格式語で表現するスキルを有していない?ためである。


格式語で表現するとは、一言で言うと、官界行政機関にて広範囲に流通可能な論理・シナリオという意味である。
行政機関の職員が職場内でそのまま使う表現(言いぶり)である必要がある。


法律の趣旨を理解できていれば、迷うことはない。単に、日本語表現が上手とか他人を感動させる文章力とは異なる次元の、論理的かつ明快な文章表現力が求められるのである。


以上

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