「絶望の裁判所」(瀬木比呂志)にそれらしい理由が述べられているので紹介させていただく。
■裁判官界の内部事情(刑事系と民事系)
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裁判官は、主として担当してきた仕事によって、民事系、刑事系、家裁系に大きく分かれる(もっとも、家裁系の数はわずかである)。そして、昔は刑事系裁判官の数も多かったのだが、裁判事務の絶対量において民事が圧倒となり、判例についても刑事のそれがごくわずかになるにつれ(このことは、判例雑誌の目次を見れば一目瞭然である)、昔は民事系に匹敵する勢力であった刑事系裁判官の数はどんどん少なくなり、たとえば、私の期(第三一期)でいうと、東京地裁刑事部初任を皮切りに事務総局刑事局、刑事系最高裁判所調査官、東京地裁刑事部裁判長等の主要ポストをも経験した順ぜんたる刑事系エリートは、全体の六〇名中せいぜい一、二名程度にまで落ち込んでいた。
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■裁判員制度導入で得したのは刑事系
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裁判員制度導入の舞台裏
竹崎長官を含む当時の最高裁判所事務総局におけるトップの裁判官たちが一転して裁判員制度導入賛成の側に回った理由については、一般的には、主として当時の国会方面からの制度導入に向けての圧力、弁護士会や財界からの同様の突き上げなどを認識し、裁判所がこれに抗しきれないと読んだことによるとされている。
しかし、これについては、別の有力な見方がある。その見方とは、「裁判員制度導入に前記のような背景があることは事実だが、その実質的な目的は、トップの刑事系裁判官たちが、民事系に対して長らく劣勢にあった刑事系裁判官の基盤を再び強化し、同時に人事権をも掌握しようと考えたことにある」というものである。実は、これは、有力な見方というより、表立って口にされない「公然の秘密」というほうがより正しい。
私自身、先輩裁判官たちがそのような発言をした例をいくつも見ているし、刑事系の高位裁判官たちが、「事務総局が裁判員制度賛成の方向に転じてくれたおかげで、もう来ないと思っていた刑事の時代がまたやって来た」という会話を交わすのも複数回耳にしているからである。
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■裁判員制度導入による、刑事系裁判官組織の強化
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裁判員制度導入の決定により、このようなあるべき方向に大きくブレーキがかけられる結果となった。これによって、刑事系裁判官の地盤が再び強化されたのである。つまり、市民の司法参加という大きなプラスイメージを伴う制度が新たに設けられることによって刑事裁判が脚光を浴びるとともに、そのような仕事に従事するのだからということで、刑事系裁判官・裁判所書記官を増員し、その特化をも固定するのが可能になったということである。
ことに、キャリアシステムにおける昇進の側面においてそれが顕著となった。
そのことを裏付けるかのように、竹崎氏は、一四名の先輩最高裁判事を飛び越して東京高裁長官から直接最高裁長官になるという、きわめて異例の「出世」をした(このように最高裁判事を経ずに最高裁長官となる人事はきわめて異例であり、第三代長官の横田喜三郎以来四八年ぶり、キャリアシステム出身の裁判官としては初めてである)。
中略
裁判員制度導入決定後、司法行政上の重要ポストのかなりの部分を、数の上からいえば民事系よりはるかに少ない刑事系裁判官が占めるという異例の事態が起こっている。
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私は、トンデモ判決が続出する民事系裁判官たちの存在を疑問視しているので、その点ではこの本の著者の意見すべてに賛同していない。
以上