宗教間対立が深刻化するアメリカ社会

イスラエルは、世論的かつ政治的にに多数派を形成するのが難しい政治状況にあるとされる。
あれほどの政治力を有する国にしては、どの政党が政権を握ろうと、安定多数確保に苦慮している。

実は、似たような現象がアメリカでも起きつつある。


「アメリカを動かす宗教ナショナリズム」(松本佐保)からの引用となるが、信者の奪い合いに伴う分断、プロテスタントとカトリック間の政治的スタンスの違いによる分断、世俗的なテーマである中絶と同性愛のプロテスタンの対決主義による分断が発生している。

主流宗派間の宗教上の解釈が分断の原因となっている関係で、アメリカ社会はさらに分断加速すると予想せざるを得ない。
分断が進むということは、最終的に何も決められない社会、何も解決しない社会、無政府状態に移行することを意味する。
長期的にアメリカが弱体化する原因となりそうな気がする。


■信者の奪い合いに伴う分断

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アメリカのカトリック教会は、「伝統派」を含む保守とリベラルに分かれ、また信者をカトリックから福音派に改宗させる宣教活動にも懸念を抱いている。プロテスタント福音派とカトリックの間では、特にヒスパニックをめぐる信者の奪い合いが起きている。カトリック教会のリベラルは包括性をアピールするが、それは宗教組織にとって究極的には信者数の増大や維持が重要な目標であるからなのだ。

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■プロテスタントとカトリック間の政治的スタンスの違いによる分断

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カトリック、特にカトリック・リベラルは、福音派の宗教保守や右派と接近することを拒んでおり、イスラエルの首都問題には強く反対している。エルサレムは三大宗教の聖地であり、ユダヤ国家であるイスラエルが独占することはイスラムとの宗教間対話の妨害になる。またカトリックの聖地でもあることから、ユダヤ・キリスト教シオニストに独占されることへの危惧もある。さらにこうした反イスラム的な政策が中東における少数派キリスト教徒への攻撃の口実となり、その命を危険にさらすとして反対している。

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■世俗的なテーマである中絶と同性愛のプロテスタンの対決主義による分断

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聖書を原理主義的に解釈する福音派

アメリカは、人口の約八五%がキリスト教徒という国である。宗教は彼らの生活に密着しているばかりか、冒頭でも述べた通り政治の場でも大きな影響力を持ち、現在では大統領選挙の行方すら左右するようになった。キリスト教にはカトリックとプロテスタントがあり、前者二三%、後者五五%という内訳になっている。つまり人口の半数がプロテスタントだ。プロテスタントは、聖書の解釈によって主流派と福音派に大きく分かれている。
主流派とは、アメリカ聖公会、そして長老派、ルター派、メソジストなどのキリスト連合協会など、いわゆる正統派のプロテスタントである。これに対して、プロテスタントが発展する家庭で生まれた新たな宗派のひとつに、カルヴァン派的な傾向の強い福音派がある。主流派に対して、非主流派と呼ばれる。主流派=多数派という意味ではなく、実際に非主流派である福音派の人口は増加傾向にあり、プロテスタントの三五%近くを占めるという。

福音派とは、聖書の福音書を信じる一派であった。「福音(Good News)」とはキリストの言葉のことであり、新約聖書のマルコ、マタイ、ルカ、ヨハネによる「福音書」は、キリストの生と死、そして復活を遂げるまでの言行を弟子たちがまとめた記録である。

元々は福音書に書かれていることを忠実に守り行動する一派だが、アメリカでは福音書を文字通り解釈して絶対視する原理主義的なキリスト教徒を「福音派」と指す場合が多い。中絶に強固に反対し、進化論を否定し、神による創造論を信じる人たちである。

中略

イギリスの宗教改革後の信仰復興とは、ヘンリー八世の後任エドワード六世が、一五五二年にノ
ックスの影響を受けたカルヴァン主義的な四二条に署名したことであり、プロテスタントの宗教改革が推進された。これをアメリカが引き継ぎ、それが第一次~第四次の大覚醒として展開する。

・第一次大覚醒(一七三〇~五〇年代)
・第二次大覚醒(一八〇〇~三〇年代)
・第三次大覚醒(一八八〇~〇〇年代)
・第四字大覚醒(一九六〇~七〇年代)
これら大覚醒のプロセスで、福音派やキリスト教根本主義的で保守的なキリスト教会が勢力を伸ばし、最も伝統的なキリスト教団体である南部バプティスト連盟とミズーリ・ルーテル教会が急成長した。このことはアメリカ各地でメガ・チャーチが建設されることにつながり、八〇年代以降はメガ・チャーチが急成長をとげる。中絶や同性愛をアメリカの世俗主義と見なし、保守的なキリスト教会が対決主義を取る傾向を強めた。

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